2003年1月13日  Config職人


その昔、Windowsはまだなく、MS-DOS全盛だった頃、Config.sys と Autoexec.Batという2つファイルに限りなく英知を注ぎ込んだ人達がいました。彼らは畏敬の念をもって Config職人 と呼ばれていました。

Config.sys と Autoexec.Bat は今で言うレジストリのようなものでさまざまなドライバーや起動プログラムを記述する定義ファイルです。MS-DOSは起動時に上記のファイルを参照して、ドライバーの組み込みや常駐プログラムをローディングしました。NECのPC98シリーズからDOS/Vの時代に移ってからはConfig.sys と Autoexec.Batはより複雑化し、また記述の方法によってはパソコンの性能に大きく影響するようになりました。特に問題となったのは 空きメモリー です。MS-DOSでは640KBのコンベンショナルメモリーと拡張メモリーから成り立っており基本的にプログラムとOSは全て、640KBのコンベンショナルメモリーに納めなくてはなりませんでした。パソコンを立ち上げて何も起動してない状態で 空きメモリーをどれだけ多く確保するかは Config.sys と Autoexec.Batの記述の仕方にかかっていました。

当時、メーカーが提供する Config.sys と Autoexec.Bat ではせいぜい、400KB確保できればいい方で、下手をすると400KBを切るようなパソコンも売られていました。DOS/Vで日本語環境を実現するには日本語に関連するドライバーをインストールしなくてはならず英語環境に比べて明らかにメモリーを喰う環境となっていたのです。

そんな折、日本語環境でありながらなんと空き領域が500KBを確保したConfig.sys とAutoexec.Batが登場し衝撃が走りました。それ以来、マニアの間ではいかにConfig.sys と Autoexec.Batを美しく且つ機能的、理論的に記述するかという命題に挑むことがトレンドとなり、やがて不可能と思われていた560KBの壁を突破、神の領域と言われた600KBの壁をあっさりと抜き去るまでに洗練されていったのです。

空きメモリー600KB ということはOSやその他、日本語ドライバーが全てあわせても40KBしかコンベンショナルメモリーを使っていない という事でこれはそう簡単に実現できる事ではなく、数々の英知と労力が注がれた結果だったのです。

「どうやったらそんなにメモリーが確保できるの?」はConfig職人にとって最大の賛辞でありました。

当時は、インターネットもまだ一般的でなく、情報収集はもっぱら書籍かパソコン通信がメインで、最新情報を入手するには極めて劣悪な環境だったと言えます。そんな中で次々と壁を更新し、Config.sysを発表していった彼らの努力は並大抵のものではなかったでしょう。

先日、古いマザーボードのBIOS UPDATEをしようと思って MS-DOSのFDを探しましていたらフル装備のConfigedMS-DOSが埃の山の中から出てきました。Windowsの時代に移った今日、一般ユーザーは殆どMS-DOSと触れる機会がなくなってきています。唯一残ったBIOSUPDATEも最近はWindowsより実行できるようになって来ており、ますます機会がなくなりつつあります。

Windowsの時代になってConfig職人はいなくなってしまいましたが こんどはレジストリ職人 という方々が出てきました。Windowsはレジストリによっていろいろとカスタマイズが可能でその守備範囲も相当広く多岐に渡ります。全てのレジストリを把握している人は皆無といっていいでしょう。膨大な数レジストリの中から有効と思われるレジストリを見つけ出し、最適な設定値を模索したり、MicroSoftから公開されていないレジストリなんかもレジストリ職人たちの手によって公開されたりもします。そうしたレジストリを簡単に設定が可能にするツールなどのフリーウェアとして公開され、レジストリカスタマイズはより身近なもになりつつあります。 しかしその陰にはレジストリ職人たちの弛まぬ研究と努力の積み重ねがあったからこそなんですね。